And Q.

思ったことを書きます

Crimson Raincoat

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rooandqoo.com

去る8/11金曜日、コミックマーケット92の1日目にて、僕が主宰するサークル「ラクエスク」から音楽CDがリリースされました。 タイトルは「Crimson Raincoat(クリムゾンレインコート)」。 ふしぎな力で雨が止まなくなってしまったルーアンドクーの住む世界。 変わってしまった日常の中で交錯するふたりの気持ちを描くお話に音楽をつけた、サントラみたいなアルバムとなっています。

コミケからずいぶん時間が経ってしまいましたが、このCDについて色々書きます。 今回はかなり自分の考えが詰まってるので、製作者の考えとか見るのが苦手な方はスルーしてください。 興味のある方はクロスフェードを聞きながら(CDをお持ちの方はそちらをぜひ)、続きを読むを押してくださいませ。

あらすじ

前作「Delicious Solaris」で、たどり着くことのできない宇宙への思いをお菓子に変え、楽しい創作活動を行ったふたり。 お菓子づくりにあたって、太陽系について色々と調べるうち、くー子は『冥王星』が司るとある単語について知る。 昔読んだ物語で見たことがある。それはとても恐ろしく、出会ってしまうと大切な人とお別れしなくてはならない。 これが私たちにも訪れたら、いつかふたりは離れ離れになってしまう……。

別れを恐れるあまり、くー子は神様にとある願い事をする。 「るーちゃんが、ずっとおうちにいてくれないかな」 その日から、彼女の世界は灰色に包まれた。

長いですけどこういう感じです。 かれこれ5年以上るー子、くー子と一緒にいて、いつもキラキラ笑顔で物事に向き合う彼女たちも、きっとダウナーな気分になることがあるはずだし、一度くらいは思い切りダークに振り切った作品をつくってみたい。

そんな思いが昨年の春先くらいからあり、悶々としていました。結果がこれです。

タイトル・コンセプトについて

冥王星のくだりは完全にリアルで、『死』という概念を彼女たちが知ったらどうなるだろう、という妄想からプロットづくりがスタート。

タイトル予定のCRのうち、Rを『Rain』でいく、というのがストンと落ちてきて、テーマが雨に決定。

※CDのタイトルには『Flowers Unfold』から、頭文字を『F→E→D→C』『U→T→S→R』と1文字ずつ戻すという変な法則を持たせています。意味はないです

ダウナーな作品とはいえ最後まで落ちきったまま終わるのは変なので、オチを考えたところで『Crimson』がいい隠し味になるじゃん!という感じでタイトルが決まりました。 難産だったのは間違いないんですけど、デリソラをつくった時に上がった自分の中のハードルを綺麗にくぐることができたんじゃないかと思っています。

余談ですが、Delicious Solarisの中には『太陽』と『冥王星』の対称性が自分でも驚くくらい綺麗に現れています。 星間の距離(太陽系の中心と一番端)、『生』の象徴と『死』の象徴、るー子の好きなお菓子『いちごのタルト』とくー子の好きなお菓子『モンブラン』……。 くー子はデリソラのお菓子づくりの中で、無意識にるー子と自分を比較していたんですね。 それは楽曲の中にも現れていて、Feryquitousさんにお願いして『宵の袂、夜と二人』の中には『Fairy Sugar Hearts』のフレーズが使われています。知らなかった人は聞いてみてくださいね。

そんなわけで、今回の『冥王星』から始まる『くー子の悩み』は個人的にとても美しい流れなんです。

イラストと音楽

ラクエスクのCDは、お話を考える→各シーンに合わせてイラストを描いてもらう(描く)→そのイラストに合わせて音楽をつけてもらう→パッケージをデザインする という流れでつくられます。

今回は『お菓子と惑星』といったパキッとした言葉がなかったので、お話のプロットをお渡しして、それぞれのシーンに挿絵をつけていただくような形でイラストをお願いしました。

雨が降り続けるとある一日。それぞれの日常を過ごするー子とくー子。くー子の決意と、それを見守るかのように変わる天気……。

皆さんが思い描くそれぞれのルーアンドクー像から、ふたりのことを考えてくれているんだなぁという思いがひしひしと伝わってきます。嬉しいです。

そして、そのイラストにさらに彩りを与えてくれる楽曲担当の皆さん。いつも自分の期待を大きく飛び越えるクオリティにただただ頭が上がりません。

パッケージングについて

『日常』という言葉がたびたび出てくるように、今回は『いつも通り』を貫きつつも、なにかひとつ変わったことをしたいな、と考えていました。 Above & Beyondリスペクトの3面デジパックはそのままに、波紋を浮き出させるちょっとした加工がうれしい1枚になりました。

目に見える部分は村田裕次さんに、内側とブックレットはヒトマスモドルさんにお願いしています。

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タオル

昨年、一昨年と続いたセットは今回はお休みで、代わりに?フェイスタオルを製作しました。

雨に濡れたら拭きますよね?だからタオルです。 CDのコンセプトに合わせたデザインをしてくれたのは3年前に引き続きくるみあべしさん。 キャラの後ろのシルエットがエモすぎます。

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楽曲(と、シーン)解説

今回、実はコンセプトデザインを村田裕次さんと一緒にやったんです。 シーンに合わせてイラストと楽曲の担当を決めていくんですが、そこも村田さんとあーだこーだ話し合って決定しました。

なので端々に「彼らしさ」みたいなものが見え隠れしてるんじゃないかと思います。

01. シャルロ - 雨音のワルツ / イラスト:どぅび

アルバムのイントロを飾るのは、初参加のどぅびさんとシャルロさん。 『雨が降り続ける世界の日常』というテーマで、本編よりは少し前の日の様子を描いてもらいました。 可愛さと危うさの同居した作風が非常に刺さっていて、しばらく前からどぅびさんのイラストのファンだったんですが、アルバム製作にあたり、このダークな世界観を表現できるのはこの人しかいないだろう、とお願いさせていただきました。 敢えてジャケットでキャラクターの顔を出さないという思い切った構図が、「なんだ、どうした!?」感を最高に演出してくれています。

一方、パッケージをひとつ開くと、家の中で待つくー子の様子が描かれています。 対面に置かれたマグカップと、遠くを見つめるくー子の目。 開封した瞬間から、ストーリーに引き込まれる構図が大変素晴らしい……。

楽曲の方にもイラストに描かれた「家の外」と「中」が現れています。 雨が降り続ける世界と、待ち続ける少女。塗り変わる日常。 完璧です。

02. aran - June in Wonderland / イラスト:十恵

ここからがある意味『Crimson Raincoat』の本編です。

雨模様の日常を楽しまんとする、るー子の朝。 さわやかなのに湿っている、そんな矛盾を抱えた朝を描くのは十恵さん。 水彩と雨模様、めっちゃ合います。

楽曲はaranさん。Stratosphereでは非常にお世話になっていますが、ラクエスクでは初めましてです。 退廃的な雰囲気とエモさを兼ね備えた、まさに雨の朝!な楽曲、お見事です。

03. C-Show - My Home Caffeteria / イラスト:えきあ

一方くー子は悩んでいました。 自分が作り出してしまった(と思われる)この日常を楽しむるー子の姿を見て自分の過ちに気づくも、一向に雨が止まないのです。 ならばせめて自分も新しい日常に慣れようと、いつも通りのティータイムを用意します。

そんな複雑な心境を描いてくれたのはえきあさん。 室内の暖かさと、外の暗さの対比に寂しさを覚えます。

楽曲はこちらも初参加のC-Showさん。 ほっとするようなサウンドの中に混じる冷たい雨の音が、イラストを完璧に表現してくれています。

04. Snail’s House - Rainy Drop / イラスト:ひかがみひなみ

森を抜けたるー子は公園にたどり着きます。 普段は人がいるはずのところに誰もいない。 『新しい日常』が見せてくれる知らなかった一面。 濡れたチェーンなんて気にも留めず、ブランコを漕ぎ出します。 雨の日でも素敵なことがある。日常が変わるなら、その中に楽しみを見出そう、という、るー子らしい考えが詰まったワンシーン。 このCDの中ではある意味異色なシーンですが、似ているふたりでも考え方が全然違うということを象徴する重要な場面となっています。

そんなシーンを描くイラスト担当はひかがみひなみさん。雨をまるでアトラクションととらえたような場面の切り取り方が可愛らしい一枚です。

楽曲はまたまた初参加のSnail’s Houseさん。 優しく綺麗な音の運びの中に、どこか切ないアコースティックギターが入るのがとてもツボです。 無邪気に楽しんでいるように見えて、その実色々と考えを巡らせているような……るー子のお姉さんらしい心情が楽曲から伝わります。

05. stereoberry - A Direction of You / イラスト:甲斐 莉乃

ティータイムを終えてしばらく、くー子はおもむろにクッキーを焼き始めます。 濡れて帰ってくるであろうるー子の髪を乾かして、晩ごはんの支度をする間、お腹を空かせた彼女に少しでも笑ってもらいたい……。そんな思いを込めたクッキーを。 るー子の笑顔を想像するだけで幸せなはずなのに、「離れ離れになってしまったら」というイヤな考えがチクチクと胸を刺します。 外に降り続ける雨も、自分のせいだ……なんて、誰にも言えないまま、モヤモヤとしたものだけが積もっていく。

そんな一幕を描いてくれたのは甲斐 莉乃さん。 消え入りそうな女の子やどこか退廃的な背景を描くイラストレーターさんです。この度は画風が好きすぎてお願いしました。 不安が伝わる表情、オーブンのほんのりした明かり、窓に吊るされたてるてる坊主……暖かいシーンのはずなのに、引きの構図が冷たさをまとっていて、そのギャップが素敵です。

楽曲はラクエスクおなじみstereoberryさん。 暖かなメロディと冷たいピアノ。癒しのメロディと落ち着かないリズム。どこかちぐはぐなパーツたちがくー子の心の動きにぴったりハマっています。

06. DJ Noriken - Ref-Rain Haze / イラスト:るーく

騙し騙し過ごしてきたくー子のストレスが溜まりきったとき、空は表情を変え嵐となって町を襲います。 突然の大降りと強い風に、たまらずるー子は大きな木の下で雨宿り。 きっと心配しているだろうから早く帰りたいけれど、空はそれを許してくれません。

という感じで嵐です。こんな暗い表情のるー子描いたことなくてちょっと心が痛みました。 CDの中で唯一と言っていいこの激しいシーンを音楽で表現してくれたのはDJ Noriken。 『暗さ』と『激しさ』という相反する要素を綺麗にまとめてくれました。 途中で鳴る『あのメロディ』に僕は泣きました。

07. Hommarju - ハイド・アンド・シーク/不安に陰る家 / イラスト:はちぷよ

激しい雨と風、光る雷。 外のるー子は今どこに?災害に巻き込まれていないか?探しに行く?その間に帰ってきたら? 止められない自問自答に、顔も身体もこわばってしまう。

初めての経験に心がざわつく。そんな心情を描いてくれたのははちぷよさん。 はちぷよさんも普段は可愛くキラキラした絵を描く方ですが、だからこそこういった表情を見てみたかった。

そんな最も暗いシーン、ラクエスクおなじみのHommarjuさんが楽曲担当です。 毎度いい意味で暴れてくれるHommarjuさんですが、今回は劇伴さながらの……なんて言えばいいんでしょう。音楽?

08. m@sumi - Il pleut / イラスト:ナツメサク

一刻も早く帰りたいるー子。嵐の合間を縫って、帰宅の決意を固めます。 小さな身体で森を進むと、気づかぬうちにずっと続いていた雨音が消え、遠い空に雲の切れ間を見つけます。 そこから差し込む赤い光。時間はすっかり夕方を迎えていたようで。 森を抜け、家から町へと向かう坂道にたどり着くと、坂の上には……!

という一連のるー子の動きを表現してくれたのはm@sumiさん。 時間経過と場面転換が一番多いこの部分、とんでもなく難しかったと思います。 でもそれをやってしまうのが本当にすごい……。

イラストはラクエスクのナツメサク。 多くは語りません。表情が全てを物語ります。

09. Feryquitous - 夕立と嘘 / イラスト:るーく

押し問答の末、くー子は家を出る決意をします。 るー子を縛りつけておきたかった場所を自ら手放す。 彼女の心境の変化が、空を動かしました。 坂道を駆け下り、森の中から出てきた小さな影を見て足を止める……描いたのはそんなひとコマです。

このあとくー子はすべての悩みを打ち明けて、ふたり帰路につきます。 怖くて言えなかったことを言う勇気を得る。言わないままでは何も変わらない。それが本作で一番伝えたいことだったんですが、なかなか難しかったですよね……。

楽曲は昨年に続きFeryquitousさん。ラクエスク初のボーカル曲です。 インスト曲よりも遥かに「曲が伝えたいこと」のイメージがはっきりするボーカル曲を書く気概にまず感服しました。

楽曲自体のエモさもさることながら、CDのコンセプトやプロットを高い次元で解釈してくださったこと、感謝してもしきれません。 とにかく観て、聴いて、感じてほしいです。

10. Scarfaith - Rainy Days Never Stay / イラスト:pen

エンディングです。

雨は止み、いつもの日常を取り戻したふたり。 だけど、それぞれを思い合う心はちょっとだけ成長しました。 『雨降って地固まる』と言いますが、これもだいたいそんな感じです。

眠りに落ちる少し前、ふたりで過ごす新しい夜。心のもやが晴れたくー子の笑顔に、るー子もとびきりの笑顔で答えます。 そんな生き生きとした表情に、penさんのわかり手ぶりがいかんなく発揮されています。

楽曲を手がけるのはScarfaithさんことMaozonさん。 昨年Scarfaith名義でリリースしたアルバムの雰囲気が良すぎて、このポジションを是非、と強くお願いしました。 全てが終わりエンドロールに続く、最高にエモいエンディング。

ブックレットを閉じた裏面は、黒い画面に流れてくるスタッフたちを想像して、ナツメサクさんが書いてくれたものです。 これにて、Crimson Raincoatは終幕となります。

おわりに

これでラクエスクの2017年の夏は終わりです。

もう絶対誓ってこれは守るので宣言するんですが、金輪際ルーアンドクーでダークなCDは作りません!(ホントは『作品』って言いたかったけどこの先マンガとか描いてたら暗いシーンとか出てきてもおかしくなさそうだからやめました)

今までキラキラしたものをつくってきて、急に方向性がぐるっと変わったことで受け入れられるか心配なところもありましたが、蓋を開けてみるとたくさんの方からお褒めの言葉をいただいて……本当に今までやってきてよかったな、という気持ちでいっぱいになりました。ありがとうございました。

次やりたいことは一応決まっていて、来年できれば……という気持ちではいるんですが、そこから先はまだまったくの白紙です。 もしかしたら来年でCDは最後にするかも?どうなるかはまだ全然わかりませんけど、ルーアンドクー(とその物語)はずっと描き続けていきたいと思っておりますので、引き続き見守っていてくだされば嬉しいです。